徒労の檻|A Cage of Vain Struggle

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第一章|Chapter 1

ワイパーが払いのける雨粒が、フロントガラスを叩き続けていた。
車内の空気は重く、淀んでいる。助手席に沈み込むように座るテツオは、窓の外を流れる暗い景色をぼんやりと眺めていた。ハンドルを握るゴウもまた、口を真一文字に結んだまま前を見据えている。

ゴウは大学柔道部の後輩であり、創業以来テツオを支え続けてきた。
そのゴウですら、今の状況には押し黙るしかなかった。

先程訪問してきた銀行での光景が、脳裏に焼き付いている。
支店長の冷ややかな視線。「これ以上の融資は難しい」という言葉がこだましている。

会社の資金繰りは限界に近づいていた。
起死回生の一手となるはずだった設備投資が、完全に裏目に出たのだ。

「……すまん」

呻くように、テツオが言葉を漏らす。
だが、雨音にかき消されたのか、ゴウからの反応はない。

――まだチャンスはある。

来る時、ポストに投函した一通の封筒。
あれが届けば、借金を返済するのに十分なお金が振り込まれる。

テツオは何度も自分に言い聞かせた。会社を、社員を守るためだ。
ウィンカーの音が、焦る心臓の鼓動のように響いていた。

山道に入り、街灯の数が減っていく。
尿意を催したのは、そんな時だった。

「ゴウ、悪いがどこか寄ってくれ。トイレに行きたい」

「……わかりました」

ゴウは短く応じると、先のカーブを曲がったところにある、古びたガソリンスタンドへハンドルを切った。営業はすでに終了しているようだが、事務所の明かりは点いている。

「ちょっと借りてくる」

テツオは小走りで事務所に向かい、ドアを開けた。
ムッとした湿気と、オイルの臭いが鼻をつく。

「すみません、トイレ貸してください」

声をかけたが、返事はない。
不審に思いながらも奥へ進もうとしたテツオの足が、ピタリと止まった。
事務所の奥、事務机の影に、男が転がっていたのだ。

作業着姿の初老の男――このスタンドの店長だろうか。
両手は後ろ手に、両足は足首を揃えて束ねるようにロープで縛られ、口にはガムテープが貼られている。
男は眠っているのか気絶しているのか、目を閉じて動く様子はない。

「なっ……」

息を呑み、後ずさるテツオ。
その背後で、ゴウがドアを開けて入ってきた。

「社長、どうしまし――」

ゴウもまた、床の男に気づき言葉を失う。

その瞬間だった。奥の休憩室と思しきドアが開き、影がぬっと現れた。
目出し帽を被った大柄な男。手には鈍く光るナイフが握られている。

「そこから動くな。手を上げろ」

低く、押し潰したような声が響く。全身から発せられる威圧感に、テツオの足が竦んだ。
そのあからさまな外見に、その男がすぐに強盗であることがわかる。

強盗は事務机に置かれていたロープを手に取ると、無造作にゴウの方へ投げた。

「お前、そいつを縛れ」

ナイフの切っ先がテツオに向けられる。

テツオは横目でゴウを見た。自分たち二人は、かつて柔道部で鳴らした仲だ。
たとえ相手が刃物を持っていようと、隙を見て飛びかかれば取り押さえられる。

テツオはゴウに目配せを送った。『機を見てやるぞ』と、その意図を伝えようとする。
しかし、ゴウはテツオの視線を無視するように、ゆっくりとロープを拾い上げた。

「……社長、手を後ろに回してください」

「おい、ゴウ……?」

ゴウの瞳は不気味なほど静かで、何を考えているのか読めない。
恐怖で感情が麻痺しているのか?

ナイフをちらつかせる強盗の視線に促され、テツオは渋々背中を向けた。
ゴウの手がテツオの手首を掴む。その力は容赦がなく、熱を帯びていた。

ざらついたロープが手首に回され、肌を容赦なく締め上げる。

ギュッ、ギチッ。

「ぐっ……!」

あまりのきつさに、テツオは思わずくぐもった呻きを漏らす。

ロープが肉に深く食い込み、手首の自由が奪われていく感覚。
脈打つ血管が縄に圧迫され、ドクドクと重く響く。

ゴウの手際は残酷なほどに鮮やかだった。
テツオの手首は瞬く間に固定され、指先以外動かすことができなくなった。

「脚も揃えて縛れ」

強盗の命令に、ゴウは従順に従う。

テツオはその場に崩れ落ちるように座らされた。
ゴウが太い指でテツオの足首を掴み、乱暴に引き寄せる。

太ももの筋肉が緊張し、震える。
手首と同じように、ロープがギリリと足首を締め上げていく。
ロープの軋む音と男たちの荒い息遣いだけが、油の匂いが漂う部屋に響いていた。

テツオはゴウの顔を見た。ゴウの顔は無表情。
ただ黙々と、獲物を狩る獣のように作業をこなしている。

――なぜだ。なぜここまで本気で縛る必要がある?

演技を超えた執拗さだ。
強烈な圧迫感が足首を襲い、抗えない鉄の枷のような重圧が走る。骨が軋むほどの拘束。

「よし。お前もだ。手を後ろに回してうつ伏せになれ」

テツオを縛り終えたゴウに対し、強盗が冷たく言い放つ。

ゴウは抵抗する素振りも見せず、言われるがままその場にうつ伏せになった。
逞しい背中が露わになり、両手を背中に回す。

強盗は慣れた手つきでゴウの太い手首を縛り上げ、続けて足首も荒々しく拘束した。
さらに、事務机に置かれていたガムテープを手に取り、ゴウの口に乱暴に貼り付ける。

最後に、テツオの方を向いた。

抵抗できないテツオの口にも、粘着質なテープが押し付けられる。
唇が塞がれ、呼吸が一気に苦しくなる。ゴムの味が口内に広がる。

ンーーッ!

テツオは喉の奥で叫んだが、それはくぐもった、獣のような音にしかならなかった。

テツオとゴウを縛り上げた後、強盗は再び室内を物色し始めた。
そこら中の引き出しを開け、金目のものをボストンバッグに放り込んでいく。
その様子を、テツオとゴウはただ黙って見ていることしかできない。

強盗はあらかた部屋を漁り終えると、今度はテツオとゴウのポケットに手を突っ込み、財布を抜き取った。

「チッ、全然入ってねえな」

財布の中身を見て舌打ちすると、数枚の紙幣だけを抜き取り、財布を床に放り投げた。

強盗はボストンバッグを担ぎ、事務所の出口へと歩いていく。
パチン、と事務所の明かりが消え、ドアが開閉する音。
そして、車のエンジン音が暗闇の奥に遠ざかっていった。

静寂が残された。
雨音だけが、以前よりも大きく響いている。

暗闇の中で、テツオは体をよじった。
硬いコンクリートの床に、縛られた腕が擦れる。

ゴウを見る。薄暗がりの中、彼もまた体を震わせているのが見えた。

太い筋肉が波打つように、後ろ手に縛られた腕を上下左右に動かしている。やがてロープから手首が抜けないと悟ったのか、今度は指でロープを擦り始めた。だが、ロープはゴウの肌にしっかり食い込んでいて、擦った程度では解けそうにない。そして、それはテツオも同じだった。

壁の掛け時計が、カチ、カチと時を刻んでいる。
針はもうすぐ22時を指そうとしていた。

――どうしてこんなことになった?

テツオの脳裏に、昼間の重い感触が蘇る。
生温かい肉体と、それをねじ伏せた時の抵抗感。うめき声と、荒い息遣い。
因果応報。そんな言葉がテツオの胸をよぎる。

手足に力を込めるたび、無慈悲なロープが肌に食い込んだ。
逃れられない戒めが脳を揺らし、どうしようもない閉塞感を運んでくる。
銀行での屈辱、そして今、手足を縛られ口を塞がれ、冷たい床に転がされている現実。

テツオは隣で転がっているゴウを睨みつけた。
お前がもっとうまく立ち回っていれば、こんな事態は避けられたかもしれない。

ゴウはロープを解くのを諦めたのか、顔を伏せたまま動かなくなっていた。
怒りと焦り、そして身体的な自由を奪われた事実が混ざり合い、テツオの意識をじわじわと蝕んでいった。

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