徒労の檻|A Cage of Vain Struggle

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第三章|Chapter 3

どれくらいの時間が経っただろうか。

テツオは苛立ちながら、とにかく必死に身体をよじっていた。
が、ゴウが縛ったロープは手首・足首に隙間なく巻き付いており、緩む気配はない。

よじるのも疲れ果ててきた頃、暗闇の中で何かが蠢く気配がした。
抵抗をやめて動かなくなっていたゴウが、芋虫のように体をくねらせてこちらに滲り寄ってきていた。

何かを決心したようなゴウの顔が、テツオの目の前まで迫る。
ゴウは何かを訴えかけるように、ガムテープ越しに小さく唸り声を上げた。
そして、自分の顔をテツオの顔に押し付けてきた。

熱い肌の感触。
無精髭がテツオの頬を擦り、脂汗が混じり合う。

ゴウは執拗に、テツオの口元のテープに自分の頬を擦り付けてくる。

(テープを……剥がしたいのか?)

意図を察したテツオもまた、ゴウの動きに合わせて顔を動かした。
いい年をした二人のオッサンが、暗闇の中で手足を縛られて顔をすり合わせている。
その姿を想像すると滑稽だが、この状況を変えるにはこうするしかない。

互いの汗と体温が、テープの粘着力を奪っていく。
髭のジョリジョリという音が脳に響く中、ついにゴウの頬肉がテツオのテープの端を捉え、めくり上げた。

空気が隙間から入り込み、やがてベリリという音と共に、テツオの口が解放された。

「くはぁ……はぁ……ッ」

新鮮な酸素と共に、熱い呼気が漏れ出る。

テツオはすぐに、ゴウのテープにも喰らいついた。
唇でテープの端を探り、歯を立てて引き剥がす。

ねっとりとした粘着音が鼓膜を震わせ、ゴウの荒い吐息がテツオの顔にかかる。

「社……長……」

解放されたゴウが、掠れた声で呟いた。

「大丈夫、ですか……」

「馬鹿野郎……」

テツオは自分の手首を戒めるロープを睨むように、背中に目をやった。

「お前、キツく縛りすぎだぞ。全然解けやしねぇ」

「すんません……ちょっと気が動転してしまって……」

ゴウは申し訳なさそうに眉を下げた。
が、その瞳の奥の光は揺らいでいなかった。

口は自由になったが、この後はどうする?
歯で、この固く締まったロープを解ければいいが…

テツオは、ここから抜け出す術を必死に考えていた。
口でスマホを操作すれば助けを呼べるが、自分も犯罪に手を染めている現状、今警察のお世話になるのは避けたい。

何とか自分たちだけでロープを解いて、脱出する方法はないか?
テツオが思考を巡らせていると、突然ゴウが話しかけてきた。

「…社長、俺の胸ポケットにライターが入ってます」
「それで縄を焼き切れませんかね?」

ゴウの提案に、テツオはハッとした。

壁の時計を見る。針は深夜の2時を回ろうとしていた。
これ以上、時間を無駄にはできない。

「……よし、ライターをよこせ」

テツオは体を反転させ、ゴウの胸元へと背中を向けた。
ゴウもまた体をよじり、胸ポケットのある側をテツオの背中へと晒す。

縛られた両手で、他人の懐を探るもどかしさ。
指先がゴウの胸板の厚みと、脈打つ鼓動を捉える。

指先に当たる、硬い金属の感触。
テツオは僅かに動く指先を駆使し、ゴウの胸ポケットからオイルライターをつまみ出した。

「社長、早く」

ゴウが背中を向け、縛られた手首をテツオの前に突き出す。
太く、深いシワの入ったゴツい指。
そして、太い手首に食い込むロープ。

(おいおい、お前が先かよ……)

そんなぼやきが喉まで出かかる。
部下に指図され、縛られた状態でせっせとロープを焼く羽目になるとは。

まあいい、今は緊急事態だ。
とにかくどちらかが自由になれば、俺達はここから抜け出せる。
テツオは舌打ちしたい衝動を飲み込み、ライターのフタを弾いた。

――シュボッ。

小さな炎が闇に揺れる。
その熱を、ゴウの戒めに近づけた。

ジジジ……。

繊維が焦げる臭いが、事務所内に広がる。

「……熱っ」

ゴウが短く呻く。

後ろ手に縛られた状態で、ロープだけに火を当てるのはかなり難しい。
いや、たとえ縛られていなくても、皮膚にがっつり食い込んだロープだけを焼くのは困難だ。

ライターの火はゴウの皮膚も舐めているはずだった。
だがゴウは身じろぎもせず、ただじっと耐えている。

そんなゴウの男気を裏切らないよう、テツオも火をロープに当て続ける。
テツオの額から汗が滴り落ち、床が濡れていった。

――ブチッ。

乾いた音がして、ついにゴウを縛っていたロープが焼き切れた。
ゴウの両腕がだらりと崩れ落ち、自由を取り戻す。

「…っ。社長、やりましたね」

ゴウはゆっくりと体を起こし、手首をさすり始めた。
そして、足首を縛っているロープも丁寧に解いていく。

テツオはまだ縛られたままだった。
床に横たわり、ゴウがロープを解いていく様を、ただじっと見ている。
ゴウの動作一つ一つが、テツオから見るとひどく緩慢で、儀式的にも見えた。

「おい、早く俺の縄も解いてくれ」

苛立ちが募り、テツオが焦燥を含んだ声でゴウを促す。
しかし、ゴウは相変わらずマイペースで、すぐに動こうとはしない。

ゴウは足首のロープも解き、足首をさすってからゆっくりと立ち上がった。
強張った身体をほぐすように、肩や首を回している。

「ゴウ、いい加減にしろ。こっちも辛いんだぞ」

その言葉に呼応するように、ゴウがテツオを見下すようにゆっくり振り向いた。
ゴウの視線はなぜか冷たく、テツオは背筋が凍るような感覚を覚えた。

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